2014/08/30

宗像大社国宝展

出光美術館で開催中の『宗像大社国宝展 −神の島・沖ノ島と大社の神宝』を観て参りました。

昨年、東京国立博物館で開かれた『大神社展』でも一部、宗像大社の神宝が公開されていましたが、本展は宗像大社にだけスポットを当てていて、100点を越える神宝や所縁のある品々が展示されています。

宗像大社は、福岡県宗像市の辺津宮、玄界灘の大島の中津宮、そして朝鮮半島と日本の中間に位置する沖ノ島の沖津宮という三つの宮からなり、三人の女神が祀られているそうです。特に沖ノ島は古来、日本と大陸を結ぶ海上交通の要衝とされ、4世紀から9世紀にわたる約8万点の出土品は全て一括して国宝に指定されています。「海の正倉院」とよばれる由縁でもあります。

まずは、宗像三女神を記した日本書紀・神代巻や仙崖の絵をプロローグに、≪第1章≫では4~7世紀までの岩上、岩陰遺跡から発掘された出土品を展示しています。

ここでは祭事に使用されたとされる銅鏡類や玉類、鉄製の武器、馬具などを展示。考古学的なことは分かりませんが、銅鏡には魚や蛙の模様が彫られていたり、幾何学的な文様など実に多彩。出土した銅鏡の数や大きさから、宗像一族の勢力や朝鮮や朝廷との関係も見えてくるようです。

「内行八花文鏡」 沖ノ島19号遺跡出土(国宝)
古墳時代 宗像大社蔵

そのほか、朝鮮・新羅の王墓副葬品に類例があるという「金製指輪」や、遠くイラン・ササン朝ペルシャからの伝来とされる「カットグラス碗片」など、古代史ロマンを感じるには十分の展示品が並びます。

ササン朝ペルシャのグラス碗片には切子装飾のものがあったり、その技術の高さと美しさに驚いたのですが、当然日本ではまだまだガラスの製造には至らず、弥生時代中期後半になって舶来品のガラスを二次加工したガラス製玉類というものもありました。一方、真珠玉は日本から中国(魏)に進貢されていたようです。

「奈良三彩小壺」 沖ノ島1号遺跡出土(国宝)
奈良時代 宗像大社蔵

≪第2章≫では、祭事が半岩陰・半露天、さらに露天へと変化していった7世紀後半以降の出土品を展示。ここでは祭祀に用いられた金属製雛形品や、神への供物として本物に似せて作ったという滑石製形代、それに須恵器など。

その中でも目を引いたのが「奈良三彩小壺」で、均等の大きさの形の良い小壷に緑釉の色合いがとても美しい。この頃になると、出土品からも中国大陸との関係性が強く、日本の対外政策が朝鮮から東魏や唐へ変化しているのが分かるといいます。

「金銅製高機」 伝沖ノ島出(国宝)
奈良~平安時代 宗像大社蔵

『大神宮展』にも出品されていた「金銅製高機」もありました。機織り機の雛形品(ミニチュア)でありながら、非常に精巧な造りになっていて、今も実際に織ることができるのだそうです。

そのほか、伊勢神宮の神宝類の中から、沖の島出土品との関連性があるものが展示されていたり、中世の書状や縁起などから宗像大社の歴史を紐解いています。

宗像大社の社僧の子で、「色定一切経」で知られる色定法師の「一筆一切経」(重要文化財)をはじめ、仙崖が「色定一切経」の断簡に賛を添えた掛軸など、興味深いものもありました。

狩野安信 「三十六歌仙図扁額 小野小町」
延宝8年(1680) 宗像大社蔵

絵画では、福岡藩の第三代藩主・黒田光之が奉納した狩野安信の「三十六歌仙図扁額」のみを展示。一枚が縦60cm近い絵馬で、全36枚が展示されています。生真面目な安信らしい狩野派のお手本のような丁寧に描かれた歌仙図です。

宗像大社には三十六歌仙を描いた絵馬が5セットあるそうで、その内の一つは、狩野永徳の名の印章があるとのことですが、検証の結果、恐らく永徳の嫡男・光信によるものではないかとされているそうです。そちらもできれば観たかったですね。


出光美術館の創設者で、出光興産の創業者である出光佐三氏が宗像の出身で、宗像大社とも深い関係にあり、そうして縁もあっての開催なのでしょう。出光美術館での開催も実に37年ぶりといいます。東京でこれだけまとまった形で宗像大社の神宝を観ることはそうそうないでしょうね。古代史ロマンが膨らむ、そんな展覧会でした。


【宗像大社国宝展 −神の島・沖ノ島と大社の神宝】
2014年10月13日(月・祝)まで
出光美術館にて


神の島 沖ノ島神の島 沖ノ島


古社寺の装飾文様 ― 素描でたどる、天平からの文化遺産 上巻 (青幻舎ビジュアル文庫シリーズ)古社寺の装飾文様 ― 素描でたどる、天平からの文化遺産 上巻 (青幻舎ビジュアル文庫シリーズ)

2014/08/19

秘蔵の名品 アートコレクション展 日本の美を極める

ホテルオークラで開催中の『秘蔵の名品 アートコレクション展 日本の美を極める −近代絵画が彩る四季・花鳥・風情−』を観てきました。

今回で20回を数えるというアートコレクション展。社会貢献活動に理解のある企業や団体、個人が参加している企業文化交流委員会の主催ということで、これまでもオランダ絵画やフランス絵画、近代日本絵画や洋画などをテーマにした展覧会が毎年行われています。

今年は≪近代絵画が彩る四季・花鳥・風情≫をテーマに、近代日本画家や洋画家の作品を中心に展示。普段なかなかお目にかかれない企業所有の作品や、幅広く全国の美術館から秘蔵の作品約80点が出品されています。

展覧会のウェブサイトを見ても情報が少なく、いったいどんな作品が並んでるのか少々不安だったのですが、多少バラエティに富んでるものの、優品も多く見応えがありました。

横山大観 「夜桜」(左隻)
大正14年(1929) 大倉集古館蔵

≪四季≫では、横山大観の代表作「夜桜」や高橋由一の「墨水桜花輝耀の景」といった知られた作品もありましたが、川合玉堂の「秋山縣瀑」や「深山抄秋」、大観の弟子・大智勝観の「梅雨あけ」、南薫造の「安浦風景」、加山又造の「雪晴れの火山」あたりが個人的には印象に残りました。

先日、山種美術館の『水の音』で作品を拝見し気になっていた奥田元宋も「秋輝」と「遠山早雪」の2点が出品。大好きな松林桂月も「南天」という晩年の作品があり、これがまた秋らしい落ち着いた趣を感じさせ良かったです。

前田青邨 「みやまの四季」
昭和32年(1957) 高島屋史料館

素晴らしかったのが前田青邨の「みやまの四季」で、半円の紅白梅に、よく見ると小鳥が集まっていて、楽しそうなさえずりが聴こえてきそう。もとは緞帳用に描かれたものということですが、そのデザイン性の高さとモダンな表現が効いています。

岡本秋暉 「花卉孔雀図」
安政4年(1857) 松岡美術館

≪花鳥≫では、まず川端玉章の「雪中群鴨」が秀逸。円山派を思わせる写実的な鴨の描写と構図・バランスの感覚が素晴らしい。ほかにも、今年回顧展を拝見し感銘を受けたばかりの木島櫻谷や、最近気になっている山元春挙、大好きな岡本秋暉もあり、個人的には満足度高し。中島千波の「坪井の枝垂桜」もいいですね。

竹内栖鳳 「河畔群鷺」
明治37年頃(c.1904)  ひろしま美術館蔵

ここでの一押しは、竹内栖鳳の「河畔群鷺」。昨年の『竹内栖鳳展』でも出品されていて、そのときもかなり感動しましたが、やはり素晴らしいですね。筆さばきの妙というんでしょうか、筆で刷いた跡を残すことで地の屏風の金が背景に残り、独特の色合いを生み出していて、また白鷺がアクセントになっていて見事です。

上村松園 「春宵」
昭和11年(1936) 松岡美術館蔵

≪風情≫では美人画がいい。おなじみの松園、清方、深水のほかに、池田蕉園の「秋思」や島成園の「化粧」、北野恒富の「願いの糸」など美人画の逸品が並びます。

橋本明治 「舞妓」
昭和34年(1959) ウッドワン美術館蔵

個人的には、橋本明治の「舞妓」や菊池隆志の「初夏遊園」、小倉遊亀「夏の客」、岡田三郎助「舞妓」あたりが好きでした。

藤島武二の初期の代表作「池畔納涼」も出ていました。黒田清輝の影響を感じさせる外光派的な作品で、淡く柔らかな色調が印象的です。

藤島武二 「池畔納涼」
明治30年(1897) 東京藝術大学蔵

そのほか静物などで気になる作品もありましたが、会場の一番最後に飾ってあった小松崎邦雄の「聞香」にはしばし足を止めて見惚れてしまいました。黒を背景に二人の舞妓を描いた作品で、写実性の高さとともに洗練されたシックな美しさ、そしてそこはかとなく漂う色気。素敵です。


入口や会場内に、本展の目録が300円で売っていて、全額日本赤十字社に寄付されるとのことです。出品作の写真は一部のみですが、解説や作品リストも載ってます。


【第20回記念特別展 日本の美を極める −近代絵画が彩る四季・花鳥・風情−】
2014年8月31日まで
ホテルオークラ 別館地下2階アスコットホールにて


上村松園画集上村松園画集


「美人画」の系譜「美人画」の系譜

2014/08/15

江戸妖怪大図鑑

太田記念美術館で『江戸妖怪大図鑑』を観て参りました。

夏休みということもあり、館内は家族連れや夏休みの自由研究と思しき子どもたちでいっばい。コワ楽しい絵ばかりなので館内も賑やかです。

本展は3部に分かれていて、7月は≪化け物≫、今月は≪幽霊≫、来月9月が≪妖術使い≫。3つ合わせると計約270点と妖怪や幽霊などの浮世絵を集めた展覧会では過去最大級とのこと。

実は先月の≪化け物≫も観てきたのですが、ブログに書き上げる前に会期が終了してしまったので、≪幽霊≫を中心にご紹介します。

7月の≪化け物≫は鬼や土蜘蛛、天狗に河童など、古来御伽草子で描かれてきたものも多く、その延長線上に浮世絵の“化け物”もあるんだろうなという感じを受けました。一方の“幽霊”は御伽草子に描かれていたという記憶がパッと浮かばず、また浮世絵の多くが役者絵だったことから、江戸時代の怪談ブームなども大きく関わっているんだろうなという気がします。

 歌川豊国 「初代尾上松助の小はだ小平次/同女房」
文化5年(1808)

“化け物”は歌舞伎にもよく登場しますが、先月の≪化け物≫にあった浮世絵で歌舞伎に取材した作品は“化け猫”でいくつかあったぐらい。しかし、≪幽霊≫ではその多くが歌舞伎絵(役者絵)で、江戸の最大の娯楽=歌舞伎と幽霊(怪談)との関係を興味深く思いました。

歌川国芳 「木曽街道六十九次之内 鵠沼 与右エ門 女房累」
嘉永5年(1852)

「お岩」、「小平次」、「累(かさね)」、「浅倉当吾」といった怪談に出てくる幽霊の絵は、勇ましかったり美しかったりする役者絵と違って、それは不気味で、おどろおどろしい。『東海道四谷怪談』は言わずもがな、「累」は清元の『色彩間苅豆』で有名ですが、江戸時代にはほかにも“累物”があったようです(落語をもとに歌舞伎化された『真景累ケ淵』も“累物”)。「小平次」も江戸時代にはいくつも狂言が存在していたようですが、現代では『生きてゐる小平次』という演目が戦後何度か上演されているだけ。「浅倉当吾」は『佐倉義民伝』の“木内宗吾”のことですが、もとの芝居『東山桜荘子』では処刑された当吾が幽霊になって化けて出てくるとのこと。今ではその場面は全然かかりませんね。

歌川国芳 「四代目市川小団次の於岩ぼうこん」
嘉永元年(1848)

≪化け物≫のときにもお化けをモノクロに描くという手法の作品がいくつかあったのですが、幽霊を薄いシルエットで描いたりモノクロで描いたりという作品も散見します。

『東海道四谷怪談』の戸板返しや提灯抜けを再現した仕掛け絵というのがあって、今でいう“飛び出す絵本”という感覚だったんでしょう。江戸の人もキャッキャ言って怖楽しんだのが聞こえてきそうです。

歌川国貞 「三代目関三十郎の直助権兵衛 八代目片岡仁左衛門の民谷伊右衛門
五代目坂東彦三郎のお岩の亡霊/小仏小平亡霊 五代目坂東彦三郎の佐藤与茂七」
文久元年(1861)

江戸の役者絵を見ると今に連なる名もある一方、途絶えた名跡も多いのをいつも感じます。団十郎はこういう役もやっていたのか、仁左衛門はこういう役もやっていたのかなどと色々と勉強になることも多くあって、『東海道四谷怪談』の浮世絵を見ると、お岩さんは音羽屋の芝居なんだなということも分かります。

歌川芳艶 「為朝誉十傑 白縫姫 崇徳院」
安政5年(1858)

歌舞伎に取材した作品のほかにも、死後天狗になり怨霊と化したという≪崇徳院≫や、『船弁慶』で知られる大物の浦を描いた≪平家の亡霊たち≫、『道成寺』のもととなる安珍・清姫伝説 の≪清姫≫などなど。

面白かったのが芳年の戯画で、自分の描いた幽霊の絵から本物の幽霊が出てきて応挙がビックリするというもの。腰を抜かした応挙が笑えます。その下に描かれているのは雪舟の“爪先鼠”の故事を描いたもの。足の指で描いた鼠がホンモノになっちゃったということでしょうか。

月岡芳年 「芳年戯画 応挙の幽霊 雪舟活画」
明治15年(1882)

お化け絵、幽霊絵は浮世絵の中でもポピュラーな分野だったそうですが、飾って楽しむようなものでもないので意外と現存数は少ないといいます。先月の≪化け物≫と同様、国芳、芳年の作品は多く、やはり面白さは群を抜きます。ほかにも豊国、国貞、芳艶といった歌川派の作品にいいのが目立ちました。19世紀以降は凝った構図や描写などどんどんエスカレートしていて、それだけ人々がより過激な妖怪画や幽霊画を求めていたんだろうなと感じます。

江戸妖怪大図鑑はリピーター割引があり、2回目以降は半券提示で200円割引。納涼気分で出かけてみるのもいいと思います。


【特別展 江戸妖怪大図鑑】
第一部: 化け物 7/1~7/27(終了)
第二部: 幽霊 8/1~8/26
第三部: 妖術使い 8/30~9/25
太田記念美術館にて


国芳妖怪百景国芳妖怪百景


北斎妖怪百景北斎妖怪百景

2014/08/14

百物語 FINAL


白石加代子の『百物語』のファイナル公演を観てきました。

締めを飾るのは、三島由紀夫の『橋づくし』と泉鏡花の『天守物語』。一番最後は『天守物語』と決めていたそうです。

ファイナルはいつもの岩波ホールではなく、東京でも何ヵ所かで公演があるのですが、やはり『百物語』を観るなら岩波ホールの大きさ(狭さ) が一番だと思ってるので、吉祥寺シアターでの公演を選びました。これが正解。一人芝居を見るには程良い大きさで、また客席と舞台との距離も近く(白石さんは緊張するとおっしゃてましたが)、また今までにないぐらいの良席だったこともあり、間近で白石さんの芝居を拝見できて大満足。

さて、まずは『橋づくし』。中秋の名月の夜に7つの橋を渡って願掛けをする4人の女性の悲喜交々を描いた作品で、それぞれ個性的な若い女性を巧みに演じ分けるのですが、それがまた可笑しい。三島の作品がそもそもユーモラスなのか、白石さんの演技がコミカルなのか。オチは途中で読めてくるのに、それを白石さんがどう見せるか、それがたまらないのです。隣の席のおばさんがケタケタよく笑ってました。

そして『天守物語』。原作は何度も読んで、歌舞伎も演劇でも観た大好きな鏡花作品。あれだけの登場人物(17人!)を一人で演じるのだから大変です。二人の黒子が白石さんの手となり足となり頑張っていました。

白石加代子が『天守物語』をやるという時点で、まぁだいだい想像していましたが、これがまた楽しい『天守物語』で、まさに白石ワールド。富姫はともかく、おきゃんな亀姫や滑稽な朱の盤坊、極めつけは舌長姥で、まぁその姿が似合うこと似合うこと(笑)

それでも図書之助が出てくると、舞台は一気に引き締まり、図書之助と富姫の二人の言葉の応酬から目が離せません。禁断の恋の熱情と切なさが胸を締め付けます。

まだまだ次の話を聴きたいところではありますが、次の話を聴くと白石加代子がもののけになって出て来るというのでやめときます(笑)

白石加代子さん、長い間おつかれさまでした。


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2014/08/08

水の音

山種美術館で開催中の『水の音 -広重から千住博まで-』を観てきました。

本展は、画面から感じられる“水の音”をテーマに、川や海、滝などの情景を描いた日本画を振り返るという企画展。歌川広重や近代日本画家、そして現代の千住博など、山種美術館所蔵のコレクションを中心に集められています。

会期中、一部作品で入れ替えがあるようですが、常時約50点の作品が展示されています。屏風など比較的大きな作品も多く、見応えがあり、またどの作品も“水の音”をテーマに選ばれてるというだけあって、清涼感いっぱい。波の音、川のせせらぎ、水面を渡る涼風を感じられて、長い坂道でかいた汗もスーッと引いていきます。

さて、会場の構成は大きく4つの章から成っています。
第1章 波のイメージ
第2章 滝のダイナミズム
第3章 きらめく水面
第4章 雨の情景


最初に登場するのが奥村土牛の代表作「鳴門」。あらためて観てみると、見た目の色の美しさやうず潮の力強さだけでなく、シンプルなんだけれどそれを感じさせない周到な構図や、非常に卓越した筆致に唸ってしまいました。

奥村土牛 「鳴門」 昭和34年(1959)

今回の展覧会で一番感銘を受けたのが山元春挙の「清流」で、渓谷の深くて青い水の美しさが、ただ美しいというのではなく、川の底まで光が届くような透明感のある美しさが表現されていて絶品でした。山元春挙というと京都画壇の重鎮。会場の後半にも春挙の作品が登場します。

小堀鞆音という方はもしかすると初めて観るかもしれません。調べてみると、歴史画を得意とし、「安田靫彦、前田青邨、松岡映丘らに決定的影響を与えた」とWikiにあります。那須宗隆は那須与一のこと。源平合戦を描いた作品ですが、やまと絵を基本としながらも視点が型にはまってなというか、構図が斬新で面白いですね。

小堀鞆音 「那須宗隆射扇図」 明治23年(1890)

本展の話題のひとつが、建仁寺方丈の襖絵と同一主題の屏風で、22年ぶりに六曲二双全てを公開するという橋本関雪の大作「生々流転」。四隻二十四扇という大屏風で、まるで「大海の磯もとどろに寄する波 割れて砕けてさけて散るかも」という趣き。大海原の荒々しさと大きさを見事に表現しています。

白波の「生々流転」の奥には、鮮烈な紅葉と清らかな渓流が美しい奥田元宋の「奥入瀬(秋)」。さらに左を見れば、青々とした海の色と渦潮の勢いに吸い込まれてしまいそうな川端龍子の「鳴門」。どの作品も臨場感があり圧倒されます。

奥田元宋 「奥入瀬(秋)」 昭和58年(1983)

川端龍子 「鳴門」 昭和4年(1929)

圧巻は第2章で、右を見ても左を見ても後ろを振り返っても滝、滝、滝。滝のマイナスイオンを浴びているようで清涼感いっぱいです。千住博の代名詞ともいうべき「ウォーターフォール」をはじめ、土牛の「那智」や横山操の「滝」、そして牛尾武の「晨響」が何と言っても素晴らしい。

奥村土牛 「那智」 昭和33年(1958)

そのほか、木目を波紋に見立てた千住博の初期の作品「水 渓谷」、光琳の「松島図屏風」を思わせる川﨑鈴彦の「潮騒」、装飾的技巧が面白い加山又造の「波濤」、雨に濡れた海棠の花が美しい小茂田青樹の「春雨」、小野竹喬の最晩年の名作「沖の灯」などが印象的でした。

小野竹喬 「沖の灯」 昭和52年(1977)

まだまだ暑い日が続きますが、都会で避暑と決め込むにはオススメの展覧会です。絵を観て涼しげな気持ちになるというのもいいものです。


【水の音 -広重から千住博まで-】
2014年9月15日(月・祝)まで
山種美術館にて


千住博の滝千住博の滝

2014/08/03

華麗なるジャポニスム展

世田谷美術館で開催中の『ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展 -印象派を魅了した日本の美-』に行ってきました。

伺った日は平日で、ほぼ開館時間に着いたのですが、チケット売り場には長蛇の列。夏休みということもあって、お孫さんと一緒の祖父母や家族連れの姿も目立ちました。ちなみに、チケット売り場の列は、展覧会を観終わって帰るときにも続いてました。すごい人気ですね。

さて、本展はボストン美術館が所蔵するジャポニスム(日本趣味)の影響により制作された絵画や工芸品、日本の浮世絵などを中心に展示しています。

≪印象派を魅了した日本の美≫とあるので印象派の展覧会かと思いきや、印象派のほか、ナビ派や世紀末美術、アメリカ絵画、アーツ・アンド・クラフツ運動やアールヌーヴォーといった工芸品まで幅広くジャポニスムに影響された作品が紹介されています。


1.日本趣味

会場に入ると最初に登場するのが浮世絵で、本展は全148点の内、数えたら浮世絵が34点も出品されています。たとえば浮世絵の構図や単純化(またはデフォルメ)、色使いなどが西洋美術にどう影響を与えたのか、時に浮世絵と西洋画を並べて展示するなど、比較対象として紹介されているので、ジャポニスムを理解する上でも分かりやすい。ただ、浮世絵を観に来たわけではないので、ちょっと多い気も…。

歌川広重 「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」
江戸時代・安政4年(1857)

ゴッホが浮世絵を模写していたというのは有名な話ですが、広重の「大はしあたけの夕立」や「亀戸梅屋敷」がそのオリジナルで、それぞれ「雨中の橋」、「花咲く梅の木」として描いています。さすがにゴッホの作品は来ていませんが、パネルで紹介されています。


2.女性

浮世絵の美人画はあくまでも鑑賞の対象であり、ブロマイドのようなものであったわけですが、印象派が登場するまでは西洋画で女性を描くといえば肖像画か宗教画だったので、浮世絵に描かれる女性の姿は西洋の人々に新鮮に映ったようです。

アルフレッド・ステヴァンス 「瞑想」 1872年頃

着物を着てくつろぐ女性を描いた「瞑想」。キレイだなぁとしばし見入ってしまいました。ステヴァンスという方は知らなかったのですが、もとはアカデミズムの画家で、モネやドガ、ホイッスラーとも親しかったといいます。エレガントな女性を描いた作品で定評があったようです。展覧会では初期のジャポニスムの画家と解説にありました。Wikiを見たら、サラ・ベルナールに絵の手ほどきをしていたというから驚きです。

フィンセント・ファン・ゴッホ 「子守唄、ゆりかごを揺らすオーギュスティーヌ・ルーラン夫人」
1889年

ゴッホの「子守唄、ゆりかごを…」は歌川国貞の「当盛十花選 夏菊」との類似性が指摘されていました。ゴッホの描く肖像画は国貞や広重の役者絵と共通点が多いと。背景が日本的でもあり、ゴッホ的でもあり、面白いですね。

クロード・モネ 「ラ・ジャポネーズ(着物をまとうカミーユ・モネ)」 1876年

“ジャポネズリ”を象徴する作品「ラ・ジャポネーズ」は、予想以上に大きく、そして美しい。モネは約10年前に描いた代表作「カミーユ(緑衣の女)」と対となる作品として制作したといいます。打掛の色の鮮やかさ、武士の立体感、トリコロールのような扇子や背景の団扇のユニークさ、床は御座というこだわり。観ていて楽しくなるし、ここまで日本を愛してくれてありがとうと言いたくなります。解説によると、打掛は能や歌舞伎で知られる「紅葉狩」を主題としていて、地芝居か花魁道中のために作られたものではないかとありました。

ちなみに、「ラ・ジャポネーズ」は修復後世界初公開ということで、キャプションでも詳しく解説されていたり、修復の様子を撮影した映像も流れていたりします。


3.シティ・ライフ

展覧会を通じて、中には「これ、ジャポニスム?」と幾分拡大解釈に思える作品もありましたが、それだけ日本美術が西洋に与えた影響は大きいというか、当時の西洋人には新鮮で衝撃的に映ったんでしょう。直接的にジャポニスムを取り入れた人もいれば、それが刺激となって新たな作品を作り出した人もいるんだなと感じます。

フェリックス・エドゥアール・ヴァロットン 「版画集『息づく街、パリ』より≪にわか雨≫」
1894年

ヴァロットンは浮世絵をコレクションするなど日本美術に傾倒していたというのは先日の『ヴァロットン展』で知りましたが、この「にわか雨」の雨の描写なんて、もろ広重の「大はしあたけの夕立」ですね。こういう雨の描き方はそれまでの西洋画にはなかったというのは、先日放映されたテレビ東京の『美の巨人たち』でも紹介されていました。


4.自然

鶴や虎、植物の文様など、日本美術に多く登場するモティーフ。白眉はコールマンの「つつじと林檎の花のある静物」で、掛け軸のような縦長の構図といい、上品で落ちついた色のトーンといい、写実的で巧みな筆致といい、どれをとっても素晴らしい。恐らくちゃんとツツジと林檎の花を探して生けたのでしょうね。生け花のセンスや花器の取り合わせも見事。コールマンはアメリカの唯美主義を代表する画家とのこと。同じくアメリカの画家フランク・ウェストン・ベンソンの応挙の絵を模したという「早朝」や印象派風の「銀屏風」も◎。

チャールズ・キャリル・コールマン 「つつじと林檎の花のある静物」 1878年

ジャポニスムというとヨーロッパを思い浮かべますが、アメリカ絵画がちらほらあるのはボストン美術館のコレクションならでは。ティファニー工房の葡萄蔓のデスクセットや松葉文様の写真立てなど今売られていても人気が出そうなオシャレな逸品もありました。ほかに、アーツ・アンド・クラフツ運動やアールヌーヴォーといったジャポニスムにインスパイアされた工芸品なども展示されています。


5.風景

最後は≪風景≫。ここで目に付いたのが海や港、または水辺を描いた作品で、浮世絵と比較しながら観ていくと、その影響、関連性というのがよく分かりますし、「ここにもジャポニスムが」というのが見えてきます。

ジェームズ・アボット・マクニール・ホイッスラー 「ノクターン」 1878年

ジェームズ・アボット・マクニール・ホイッスラー 「オールド・バターシー・ブリッジ」
1879年

いわれてみれば、ホイッスラーの墨絵のような「ノクターン」も闇に霞む遠景や舟の情景が日本画のようであり、エッチングの「オールド・バターシー・ブリッジ」も広重の「東海道五十三次 岡崎 矢矧之橋」を彷彿とさせます。

エドゥアルド・ムンク 「夏の世の夢(声)」 1893年

ムンクのこれのどこがジャポニスムなのかと思ったら、森の木々の格子構造には元ネタがあるといいます。ほかにも広重の作品と類似点があるモネの作品や、有名な“水の庭”を描いた「睡蓮」などが展示されています。


印象派など西洋絵画を見慣れた人にも、アートビギナーにも、そして夏休みの自由研究の児童にも、それぞれに楽しめて、勉強になり、いろいろ発見のある展覧会だと思います。世田谷美術館はどの駅からもバスを利用しなければならず、ちょっとアクセスが悪いのですが、期間中、用賀駅から直行バス(100円)が出ていて、これが便利でした。


【ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展 -印象派を魅了した日本の美-】
2014年9月15日(月・祝)まで
世田谷美術館にて


美術手帖 2014年 08月号美術手帖 2014年 08月号


印象派で「近代」を読む―光のモネから、ゴッホの闇へ (NHK出版新書 350)印象派で「近代」を読む―光のモネから、ゴッホの闇へ (NHK出版新書 350)