2015/05/04

世紀末の幻想

国立西洋美術館の版画素描展示室で開催中の『世紀末の幻想』を観てきました。

19世紀末に多くの画家たちが独創的な表現を探究し、一層の華やぎを見せたというフランスの版画芸術。ここではその時代のリトグラフとエッチングを中心に紹介。世紀末芸術ならではの幻想的なイメージと、絵画とはまた違った表現性を堪能できます。

会場の構成は以下の通りです:
夢見る色彩
中世への憧れ
たましいの肖像
街角の美術館
ファム・ファタル
ブルターニュという異郷
物言いたげな陰影


ポスターはちょっとメランコリックというか、いかにも退廃的な雰囲気を漂わせていますが、最初に登場するのはナビ派の穏やかな色彩によるカラーリトグラフ。同じモチーフを油彩とリトグラフで表現した作品は、その制作方法の違いやドニがどんな表現を求めたかも垣間見えて興味深いですね。

[左]モーリス・ドニ 「アッシジの聖フランチェスコ」 1926年
[右]モーリス・ドニ 「クァトロ・トッリ城、シエナ」

ドニはほかの作品や、最近個人的にお気に入りのヴュイヤールも。ヴュイヤールの作品のモデルは母親かな?なんかとてもパーソナルな感じで和みます。

エミール・ベルナール 『レ・カンティレーヌ』のための挿絵より 1892年頃

ベルナールのリトグラフ(正確にはジンコグラフ)がいくつかあって、よく見るベルナールの絵の感じと全く違うので新鮮な驚きでした。象徴派の詩人ジャン・モレアスの詩集の挿絵で、いわゆるゴシック趣味というか、中世のおどろおどろしい雰囲気が素朴な線描で描かれています。

ウジェーヌ・カリエール (左から)「エドモン・ド・ゴンクール」
「ポール・ヴェルレーヌ」「アンリ・ロシュフォール」他 1896-97年

会場で印象的だったのがカリエールの肖像版画。写真かと見紛うぐらい写実的で、まるで暗闇の中からふわーっと浮かび上がってくるような不思議な焦点とクリアーさ、独特の陰影表現が素晴らしい。思わず唸ってしまいました。

[左から]ヤン・トーロップ 「『守られたるヴェニス』のプログラム」 1895年
カルロス・シュヴァーベ 「第1回薔薇十字展のためのポスター」 1892年
アルフォンス・ミュシャ 「『ロレンザッチオ』のポスター、サラ・ベルナール」 1896年

この時代の特徴として印刷技術の発達と、演劇などのポスターに表現の場が広がったということがあります。こうして並ぶと、アールヌーボーのデザインとポスターの親和性の高さが分かりますね。「薔薇十字展」のポスターが目立っていますが、右隣のポスターはミュシャで、フランスの大女優サラ・ベルナールが男装しているという倒錯的なもの。

[左]リュック・オリヴィエ・メルソン 「サロメ」 1899年
[右]アンリ=ジャン=ギヨーム・マルタン 「荊冠を被った女(沈黙)」 1897年

よくあるサロメのイメージと違って、一見清純そうなんだけれども狡猾さも覗かすメルソンの「サロメ」。退廃的でちょっと不気味さを漂わすマルタンの「荊冠を被った女(沈黙)」もいい。 

シャルル・コッテ 「ポン・タン・ロワイヤン」

[左から]シャルル・コッテ 「祈り」
シャルル・コッテ 「行列」 1913年  シャルル・コッテ 「悲しみ」 1908年

たぶん初めて観たのではないかと思うのですが、シャルル・コッテ。この感じ好きです。ブルターニュ地方の貧しい暮らしと厳しい自然、そして深い信仰。強い筆触と独特の色調から滲み出てくるようです。

[左]ポール=アルベール・ベナール 「ロベール・ベナール」 1891年
[右]ポール=アルベール・ベナール 「ケープをまとった女」 1889年

ポール=アルベール・ベナールも馴染みのない画家。油彩ではラファエル前派にも傾倒していたようですが、ここで展示されている作品は象徴主義色が強く、幻想的な感じが濃厚です。エッチングの緻密で繊細な線描と、強い明暗表現。よく見ると女性の顔が骸骨だったという作品もありました。如何にも世紀末的な世界観。

ポール=アルベール・ベナール 「暖炉のそばで」 1887年

新館の2階の奥でひっそりと展示されていますが、この時代の作品やモノクロームの世界が好きな人にはオススメです。こちらは常設展なので、常設展のチケットで観られますし、当日であれば『グエルチーノ展』のチケットでそのまま入れます。


【世紀末の幻想-近代フランスのリトグラフとエッチング】
2015年5月31日まで
国立西洋美術館 版画素描展示室にて


世紀末の夢―象徴派芸術世紀末の夢―象徴派芸術

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