2018/04/07

猪熊弦一郎展 猫たち

Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の『猪熊弦一郎展 猫たち』を観てきました。

昭和を代表する洋画家で、特に昭和30年に拠点をニューヨークに置いて以降は抽象画を多く発表し、日本のモダンアートの先駆者として評価されている猪熊弦一郎。今回の展覧会は無類の猫好きとして知られる猪熊の猫の絵だけを集めた展覧会(最後に少し猫以外の作品もあります)です。

猪熊の奥さんが大の猫好きで、いっときは“1ダースの猫”を飼っていたこともあったのだとか。最初は作品の片隅に脇役として登場していた猫も、いつしか作品の主題になったり、猫の絵を通して、マティスやピカソの影響、そして具象から抽象への変化も分かったり、たかが猫されど猫という感じの展覧会でした。スケッチも多いのですが、みんな猫なので全然OK。猫好きだからこその観察眼。たまりません。


会場の構成は以下のとおりです:
初期作品
猫のいる暮らし
猫のスケッチ
モニュメンタルな猫
人と猫
にらみ合う猫
再び猫を描く
猫のコンポジション
猪熊弦一郎の世界

猪熊弦一郎 「マドモアゼルM」
1940年 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵

初期作品の中で印象的だったのが「マドモアゼルM」。色合いはピカソの“青の時代”を彷彿とさせるのですが、雰囲気は藤田嗣治ぽい感じも。大戦中の中国での取材に基づく「長江埠の子供達」も藤田の中南米歴訪後の作品あたりに似てるなという印象。パリ時代の猪熊は藤田と家族ぐるみの付き合いだったそうで、画風も少し影響を受けていたのかもしれません。

猪熊弦一郎 「妻と赤い服」
1950年 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵

戦後すぐの「青い服」や「妻と赤い服」、「婦人と猫」、「裸婦と猫」あたりはマティス色が強すぎてあまり猪熊の個性を感じないのですが、猫はどれも独特の仕草や愛嬌があって面白い。テーブルの上にのって食事をしてる最中の猫、顔がライオンになってる猫、困った表情の猫、自転車のサドルにのってる猫、思い思いにくつろぐ猫、毛を逆立てて威嚇しあう猫…。よく猫の表情を掴んでるなと感じます。

1950年代以降の作品は抽象と具象を行き来するようなところがあって、人や猫の顔や身体が丸や四角、三角などの図形的になったり、幾何学的な様相を呈したり、だんだんと単純化されていきます。猫が描かれる作品は決して多いわけではないようですが、最近は猫の絵ばかりを描いてるとか、猫の小さな猛獣性を美しく描くことは難事中の難事だとか、猫が一つの方便になって自分なりの画面構成を考えることの方が面白くなってきたとか、猫の画を描くことが猪熊にとって気分転換だったり、造形を考える上でのヒントだったり、プラスに働いていたことが分かります。

猪熊弦一郎 「猫と食卓」
1952年 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵

同じく猫好きの大佛次郎が飼ってた柄が継ぎはぎのようで雑巾猫と呼んでたシャム猫を面白いと感心して貰っていったとか、疎開先に猫を連れてったら猫が農家の鶏を殺して大騒動になったとか、オス猫が寝てた知人の頭にスプレーしたとか、紹介されてるエピソードもいちいち最高です。



最後のスペースはスケッチや晩年の作品が中心。ここだけ写真撮影可になっています。晩年の猪熊の作品には人の顔や裸婦、馬や鳥は登場するものの、猫はそれほど多くないといいます。スケッチにはたくさん猫が描かれているので、もしかしたら猪熊は猫に対する思いが強すぎて、猫を単なる形態の要素として割り切って描けなかったのではないかと解説にありました。

[写真右] 猪熊弦一郎 「二人の裸婦と一つの顔」
1989年 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵

猪熊弦一郎 「葬儀の日」
1988年 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵

一角に、愛する妻へ捧げる絵が。まわりにはたくさんの猫たち。上の方に並んでいる猫の額縁は亡くなった猫たちでしょうか。

[写真右] 猪熊弦一郎 「不思議な会合」 1990年
「楽しい家族」 1989年 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵

本展は会期が4/18までと短いので、行くつもりの人は要注意。金曜・土曜は21時まで開館(入館は閉館の30分前まで)しているので時間に都合がつく人は夜の方がゆっくり観られるかも。あと図録がなかったのが少々残念。代わりに『猫画集 ねこたち』という本を売ってますが、展覧会の出品作が全て載ってるわけではありません。


【猪熊弦一郎展 猫たち】
2018年4月18日(水)まで
Bunkamura ザ・ミュージアムにて


ねこたち (猪熊弦一郎猫画集)ねこたち (猪熊弦一郎猫画集)

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